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2010年6月23日 (水)

北野弘久先生を偲んで・・・・

 あの「北野税法学」で著名な北野弘久先生が6月17日にご逝去された。

ご訃報は存じ上げていたが、今日の日経新聞に掲載されたので改めて哀悼の感が強まる。

思えば日本租税理論学会で最初の学会報告をさせて頂いた。

 当時学会長の北野先生が最終講評の中で、私の名前をわざわざ挙げて讃辞の言葉を下さったことは忘れることが出来ない。学会誌でもそのまま掲載されているので今でも宝物である。

学会の懇親会では親しくお話をして下さり、私の修士院生にも気楽に声をかけて下さったり、記念写真にも気軽に応じて下さった。

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白服の私の右肩に立って下さっている

北野先生

私が寄り添っていってる感じ。

 昨年の名古屋での学会でお目にかかったのが最後となってしまったが、先月、ちょうど私が大学院でゼミをしている最中に携帯にお電話を下さった。

「知ってると思うけど白血病になってね、自宅にはいるんだけど輸血療養にしてるんだよ、もう79歳だしなぁ。感染が心配なのであまり人前には出ないことにしてるんだ。ところであんたを学会の理事にしてあるし、もう一つの会があってそれにも入会即理事になって欲しいから頼むぞ」と・・・・・・・・

有無を言うどころでは勿論なく、「はい!分かりました」

同じ病気に関する知識が若干あったので、色々と話をさせていただいたところ、

「あんたはやけに詳しいな、今後は静かにしていることにするから。」

何か寂しい気がしてならなかった。

直接の時代は知らないが、日大時代は北野租税法と故松沢智先生の租税法教室とが

双璧であり、凄まじい熱気だったと聞いたことがある。

松沢先生とも生前は大変親しくさせていただいたし、教えてもいただいたことを思い出すが、今やお二人とも故人となられたことが辛い・・・・・・・・・・・・・

九段の私学会館でのお別れの会には参加出来そうもありませんが、

北野弘久先生、心からお悔やみを申し上げます。        合掌

2010年6月21日 (月)

久しぶりに

日税連機関誌のコラムを書いた。北極星と言うのだそうだ。

「北極星」 非対称性      

 政権が変わり税制調査会の各専門委員会の昨今の議論は従来に比べ新鮮に映る。

 十数年、本音と建前で税制改革の期待を裏切られてきた、あるべき税制論議が尽くされることを切に望みたい。

 社会保険庁解体は論外だが、大きな社会保険料負担との関連で痛税感の薄れも懸念され、いよいよ税制だけではこの国は救えないとの感を否めない。財政つまり税収確保、その財源確保の議論が中心なのは現下の財政健全化解決のためには喫緊の課題であることは間違いないが、租税はどうあるべきか。

 「公平」「透明」「納得」この政権の税制理念は如何に実現するのだろうか。多くの判例は行政の反復大量性、租税債務の早期確定の安定性を理由に納税者の権利は一定の制限を受けることに合理性があるという立場を定着させた。残念かつ悲しいことである。

 減額更正期間の非対称性はその顕著な一例であり、結果として国庫主義優先の典型的産物であろう。この非対称性を各理念にフォーカスすると、「公平」とは互いの権利義務関係が均衡していることであり、「透明」とは一方の思惑が公開されそのまま他方に伝わることであり、「納得」とは双方同じレベルでの攻撃防御がなされた結果で生まれるものである。

 いうまでもなく、現在の更正権は課税行政庁と納税者とでは極めて非対称性が顕著であり、「公平」「透明」「納得」という政権の標榜する税の在り方の正反対に位置している。

 税源確保のための基幹税の分配議論、地域主権云々で新税構想の可能性議論は盛んだが、いかなる税収構造を組み立てようと、課税行政庁と納税者の権利義務関係が対象性を有していなければ「公平」「透明」「納得」は得られない。

なんてことを書いたのだが、更正の請求の権限のアンバランスは、単に反復大量の行政処理などに原因を求めること自体が人権侵害である。

ただ、修正申告に減額修正を含めろ!という主張もあるが、これはどうかと思う。そもそも申告納税制度の枠内でこれを認めると申告期限の厳格性の意味が薄れていく。

要は、明らかな課税要件の間違いがあったなら、法律に従う税法の適用を遵守する課税庁は最良の範囲などという馬鹿げた権威主義、国庫主義に依拠するのではなく、粛々とあるべき課税要件を認め、都合の悪いことにはなんだかんだとへ理屈をつけないで是正処理すべきだ。一円も、多くても、少なくてもならない、それを保証するのが代表制による租税法律主義であり、官僚主義などで国民=納税義務者の権利関係を崩してはいけない。

この国も、いい加減にせんといかんぜよーーーー!!

2010年6月 8日 (火)

さて、内閣は代わったが・・・・

そもそもの税制の方向性は変わるのか?

大綱に書いた方向性は??

以下、★は私見。

各主要課題の改革の方向性

○ 納税環境整備
 納税者権利憲章(仮称)の制定、国税不服審判所の改革、社会保障・税共通の番号制度 導入、歳入庁の設置等について、税制調査会に設置するPT等において検討を行う。

★納税者権利憲章は法律(Low)ではなく(Chater)であり、税制と同レベルではなく税制の構築理念として税制とは別な議論過程で創られるべきもの。
★国税不服審判所の改革は、租税を始めとする各種行政専門裁判所の創設といった現行司法制度の根幹をなす意識の大変換を要する。取消採決を公表しない当局の体質があるウチは第三者機関にはなり得ない!!
★納税者番号制度は各国統一化されておらず、混乱や不正も多いので、社会保険等との共通番号ではなく、税法のみの番号制度でなければ、おそらく現政権党が導入予定の給付付き税額控除が機能しない。
★歳入庁の導入は行政改革、徴収機能性の向上に一定の効果は存在するが、行政  組織制度内での人員不足や教育、実務経験など簡単には定着しない。

○ 個人所得課税
 所得再分配機能を回復し、所得税の正常化に向け、税率構造の改革、所得控除から税額 控除・給付付き税額控除・手当への転換等の改革を推進する。
 個人住民税については、今後の所得税における控除整理も踏まえ、控除のあり方につい て検討を進める。
   
★所得控除の租税法的意義は特に中低所得者の課税最低限の確保であり、給付という税の本質とは異なる制度実施のための圧縮は本末転倒であり、高所得者有利の累進構造の改編、所得制限などで工夫されるべきもの。
   
★消費税はあと3年は上げない公約だが、現実論としては維持できない可能性も高く、経済環境の落ち込みによる直接税の税収減少を是正する根本的改正と、封印され ている感のある直間比率の議論が抜けている。また、IMF等の外圧を理由にサラッと方針を変えるのが今までの実績である。
   
★経営戦略会議では年末調整廃止を既定路線としており、その際の具体的対策、つまり給与所得控除の定義、見直し、確定申告時の必要経費の範囲等、事業者と給与所得者との整合性を短期間で納得できる制度に出来るとは思えない。
   
★給付付き税額控除は各国独自の制度で運用されており、家族単位補足など納税者 番号制度が不可欠であるがそれでも不正請求等が多い。消費税の税率アップによる逆進性緩和対策と考えられているが、本来他税目で措置されるべきではない。

○ 法人課税
  租税特別措置の抜本的な見直し等により課税ベースが拡大した際には、成長戦略との整合性や企業の国際的な競争力の維持・向上、国際的な協調などを勘案しつつ、法人税 率を見直していく。

★実効税率の測定方法が他国比較の税率比較だけで行うところに間違いがあり、社会保障費等との合計負担率は必ずしも高くはない。
   
★国際競争力を原因とするのはアジア各国などの税率下げ対応策であり、課税ベースの拡大は税率下げの場合の国庫主義的徴収確保の手段であるから、課税ベース拡大が先にあるのではなく、先ずは法人税率下げ、が目的なのに論理すり替えがある。

○ 国際課税
  国際課税を巡る状況等を勘案しつつ、適切な課税・徴収を確保するとともに、企業活 動活性化のために税務執行に係るルールを明確化・適正化すべく、必要な方策を検討す る。また、租税条約について、ネットワークの迅速な拡充に努める。

○ 資産課税
  格差是正の観点から、相続税の課税ベース、税率構造の見直しについて平成23年度 改正を目指す。

★民主党政策インデックスでは遺産課税方式採用を明記している。さて、その影響は?
 
★格差、の概念が納税者数(割合)の減少のことなら本末転倒であり、超過累進税率強化こそが妥当する。(富裕層からはより多く)
   
★課税ベースの拡大は基礎控除の引き下げしかない。

○ 消費税
 今後、社会保障制度の抜本改革の検討などと併せて、使途の明確化、逆進性対策、課 税の一層の適正化も含め、検討する。

★福祉目的税構想は財政改善優先という論理の前では埋没しやすい。   
   
★既にIMF等は日本への増税政策を提言しており、政権公約が結局は外圧を理由に反故にされてきた前例は多く、前倒し税率アップがあり得る。

★消費税単独での逆進性対策は軽減税率導入や免税制度改正等が不可欠であり、当  然にインボイス導入になるが、単一税率でのメリット、デメリットを事務負担との側面から十分考慮する必要がある。

税法をいじるのは面白いかも知れないが、人の、会社の生命線に影響することを忘れるとしっぺ返しが必ず来るのだろう。取り返しがつかなくなる前に、納税者が納得して納税し、納得する使い方を示してくれるのが政治の根っこにあることを今更ながら実感する。

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